あの加藤とあの課長
「…は? 俺はそんなに暇じゃない、他を当たれ。」



不意に聞こえてきたその言葉に、洗い物をしていた手を止めて、そちらを見る。

面倒臭そうに頭をガシガシと掻く。


こちらに背中を向けているので、その表情は分からない。



「公私はきちんと分けろ。」



そう言って、電話を切った。

腰に手を当て、大きな溜め息を吐いて、そのまま俯いてしまった。


今の会話の感じ…、仕事じゃない?


じっとその後ろ姿を見つめていると、不意に振り返った源と目が合って、思わず思いっ切り反らしてしまった。



「どうした?」



ケータイをカウンターに置いて、私の後ろに回る源。

いつものように私の腰に腕を回した。



「今の、仕事?」



あまり干渉したくない部分ではあるものの、気になりすぎて訊いてしまった。

源は困ったように笑った。



「仕事。……最後のは、食事のお誘い。」

「…女の人?」



そう尋ねると、源は溜め息を吐きながら、私の肩に額をつけた。



「妬いてるのか?」

「…妬いて、ない……はず。」
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