あの加藤とあの課長
クスクスと笑いを零すと、私の腰に回した腕に力を込めた。



「女。だけど、やましいことはない、何も。」



そんなの、分かってる。

じゃなきゃ寝室のドアを開けっ放しになんてしないだろうし、あの態度。


源はわりと、分かりやすい部分がある。



「風呂入ってくる。」

「あ……、うん。」



パッと離れた腕に寂しさを感じた。

だけど寂しさよりも大きかったのは、罪悪感にも似た何か。


その“何か”の答えは…何となく分かる。

(恵也のこと…か…。)



「ふぅ…。」



洗い物を終え、ソファに座って一息吐く。


終わりの見えない、この日々。

いつか帰って来れる、そんな確証はあるものの…、終わりの見えない日々がこんなにも辛いだなんて、思いもしなかった。


帰る場所があるっていうのは、諦めがつかない願いにも似ていて…、逆に苦しいときがある。


(私は、弱い。)

帰って来れるなら、早く帰って来たい…。


膝に額をつけ、ギュッと目を閉じた。


そのとき、後ろからふわりと私を包み込むものがあった。
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