あの加藤とあの課長
「どうした…?」



耳元で響く声に、涙腺が緩んだ。

顔を上げて振り向くと、思いの外近くに源の顔があって、肩が跳ねる。



「源…。」



「ん?」と首を傾げる源。

いつもの源だ。


源は何も変わらないのに、私だけが変わっていく。悪い方に変わっていく。



「源ぇっ…。」



その首に腕を回してしがみつくと、優しく背中を叩いてくれる手。


この腕の中が一番安心できる。

その事実に変わりはないのに…。



「っ、私っ、帰って来たい…、帰って来たいよぉっ…!」



駄々をこねる私の言葉を、遮ることなくただ静かに聞いてくれる。


体の震えが止まらない。

変わっていくことが怖い。



「…陽萌。」



暫くして、源が静かに言った。



「…お前はそれで、いいのか?」

「……。」

「そうやって逃げて、それでいいのか?」

「だっ、て…!」



源は私の頬を伝う涙を優しく拭った。

そして腰を曲げて私と目線を合わせると、静かに続けた。



「帰って来たって構わない。だけど、陽萌は本当にそれでいいのか?」

「っ…。」

「いつか絶対、後悔する日が来る。」
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