あの加藤とあの課長
寝室のドアを開けてリビングに戻ると、先ほどと何ら変わりのない源がいた。

源の隣に腰掛けると、源は呑んでいたビールの缶をテーブルに置いた。


源の方を向けば、源と目が合う。

心なしかその視線が冷たいように感じる。



「…電話。誰からだ?」

「え、あ…、恵也だった。」

「ふぅん…。」



そう返事をすると、テレビへと視線を戻す。



「仕事か?」

「え…と…。」



別に、やましいことなんて何もない。

だから堂々とすればいいのに、そうできなかった。


それは私自身が今、やましさを抱えているから。



「恵也、風邪引いたんだって。で、人恋しくて…電話寄越したって。言って、た。」



空気が、重い。



「……へぇ。」



声は辛うじて優しいものの、その口調は冷たさを孕んでいて。

私は思わず下唇を噛み締めた。



「…寝るか。」



源はビールをグッと呑み干すと立ち上がった。


私は立ち上がることができずに、その後ろ姿をボーッと眺めていた。

源が入った後、開けっ放しの寝室から冷気が侵入してくる。


(あ…。)


私、さっき寝室のドア閉めちゃった。

源は閉めないでいてくれたのに。
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