あの加藤とあの課長
どうってないこと。
本当に些細なこと。

だけど、遠距離の私たちにはそんなことが大切だというのに。


私はそんな気遣いを忘れていた。


テレビと暖房、照明を落として寝室へと足を踏み入れた。



「…源。」

「ん…?」



その返事は眠気を纏っていた。

本当なら明日もあるし、そのまま寝させてあげたい。


だけど、話さなきゃ、少しでも。



「あの…、怒って、る…?」



私がそう言うと、すでに布団に入って横になっていた源がムクリと起き上る。

その表情からは何も読み取れない。



「…怒っては、ない。」



そっぽを向いてボリボリと頭を掻く。


私はドアの側で立ち尽くしたまま、その場を動けずにいた。

そんな私に気付いて、おいでと手招く源。



「怒ってないから。」



そう微笑む。

その微笑みを見て、私の足はやっと動いた。


源の側に行くと、強く腕を引かれて、源の胸に倒れ込む。



「…不安にさせたなら、謝る。」



源の胸に顔を埋めて首を振る。

だって、悪いのは私。



「源は悪くない、悪いのは私だもん…。」



不安にさせたのはきっと私の方。
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