あの加藤とあの課長
翌朝、引っ越す前と同様、源と一緒に出勤する。



「おはようございます。」



そう投げ掛けられる挨拶は、相変わらず老若男女問わず。

帰って来たって感じがする。



「生渕課長!」



エレベーターに向かう途中、源を呼び止める人がいた。

それは女の人で、たぶん営業部の人。


私が出向になって以降の人事で配属されたんだろう、私の知らない人だ。



「どうした。」

「ちょっとトラブルが…。」

「分かった、すぐ行く。」



この会話を聞いて、思い出すのは出向になる前の日々。

出向になる前、こういった役割は、私のものだった。


懐かしい日々が遠ざかっていくような気がした。



「加藤、じゃあまた後で。」

「あ、はい。」



忘れずに声を掛けてくれる辺り、なんだか温かみというか愛を感じたりする。


源とはどうせ会議でも会うし、家でも一緒だし。

何より仕事なら仕方がない。


源と別れて独り、エレベーターで休憩場所へと向かった。

会議まではまだ時間がある。


本当は営業部に顔を出しに行こうかと思ったんだけど、トラブってるなら今はバタバタしてるだろうし、避けた方がいいかと思って。
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