あの加藤とあの課長
そう言う晋ちゃんの声が、どこか遠くに聞こえる。



「晋ちゃ…、私…。」

『うん…。』



泣くことすら、できない。
ううん、泣いちゃいけない。

だって手を離したのは、私の方。


読んでいないけれど、きっと私が振っただのなんだの、そんなことも書かれているはず。


そう思うと、眩暈が一層酷くなった。



『課長は…、社内報を見てなかったから、もしかしたらまだ知らないかもしれないけど…。』



そんなはずない。

源が知らなくても、敏ちゃんが絶対知ってるから…。



「ごめ…、晋ちゃん。ちょっと、時間が…。」



絞り出した声は、力が籠っていなくて、掠れていた。



『あ、あ、うん、分かった。じゃあ…。』



何とか電話を切って、ケータイをデスクに置いた。


本能が働いたんだ。

もし通話中に私が倒れたりしたら、それは間違いなく晋ちゃんを通して源の耳に入る。


別れたのに。
もう関係ないのに。


なのに、付き合っていたら源が心配するだろうことは、極力源の耳に入れたくない。

そう思ったから。


電話を切った瞬間気が緩んで、目の前が霞んだ。



「陽萌?」



私を呼ぶ恵也の声が聞こえたけれど、返事をすることすらできず、私は意識を手放した。
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