あの加藤とあの課長
「弱ってるお前に付け込むなんて、卑怯やと思う…。でも、それくらい俺も本気なんや。」



掴まれた腕が、掴まれたところから熱を帯びていく。

熱がある私と、お風呂上がりの恵也。


どちらの熱か分からない程温度が溶け合う。



「側にいれれば、ええと思った。」

「っ…。」

「けど、昔と変わらん陽萌を見つける度、苦しくて苦しくてっ…。」



恵也の表情が、苦痛そうに歪められる。



「もう誰のモンでもないんやったら、もう遠慮せん。」



そう言って、掴んだままの私の腕を強く引き寄せた。

熱がある体を労わってか、緩く抱き締められる。



「好きや、陽萌。あの頃から、ずっと…。」



あれからもう、10年。

私たちは大人になったはずなのに。



「け、いやぁ…っ。」



嗚咽を漏らし泣く私の頭を撫でるその手は、変わらない。

私を抱き締めるその腕も。


鼻孔を霞める恵也の匂いも。


何も、変わらない…。



あれからもう、10年。
私たちは大人になったはずなのに。

この10年で変われていなかったのは、私だけじゃなかった。


恵也の背中にしがみ付くように腕を回すと、私を抱く手に力が籠った。



この10年で変われていなかったのは、私も、恵也も、同じ。

2人過去に、囚われたままだった。
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