あの加藤とあの課長
気が付くと、そこは知らない場所で、目の前には険しい顔をした課長の顔があった。



「課長…。」



驚いてそう漏らすと、課長はホッとしたのか溜め息を吐いた。



「お前、昨日……。…いや、なんでもない。」

「…?」



何を言わんとしているのか、分かるような、分からないような。


それより、ここはどこなんだろう。

辺りを見回すと、ここは救護室のようで、どうやら私はそこのベッドに寝ていたらしい。



「加藤さん。」



ひょこっと顔を覗かせた本間さん。たぶん課長の前だから私をそう呼んだんだろう。



「大丈夫?」

「はい…。」



取引先の救護室にご厄介になるなんて…。

ということは…、本間さんが課長に連絡してくれたのかな…?



「ご迷惑おかけしました。」

「いやいや。」



そう笑顔で言いながらも、ふと何かを考えるかのような表情をしたのち、真剣な表情で言った。



「ほどほどにね。」

「え?」

「ま、今度飲みに行こうよ。」

「は、はい…。」



迷惑かけたわけだし、これは逃れられないかもしれない。

借りができてしまった。



「じゃあ、俺は仕事があるから。」



「お大事に」と言い残して救護室を出ていった。

……ほどほどにって、なんのことだろう。


それから救護室を後にして、課長が乗ってきたらしい社用車に乗り込んだ。



「…このまま直帰でいいな。」



時計を見ると定時を示していた。

有無を言わさぬ課長の表情に、私は消え入るように「はい」とだけ返事した。



「お前の家の場所は分かる。着くまで寝てろ。」

「すみません…。」



なんで知ってるんだと一瞬思ったけれど、歓迎会の翌日、家まで送ってもらったことを思い出した。

遠慮なく目を閉じると、私はそのまま眠りに落ちた。
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