あの加藤とあの課長
「加藤さんも、生渕さんも、お互いのこと、大好きやないですか…。」

「……。」



私はどう答えることも、できなかった。


私はまだ源が好きだ。

だからこそ、いつか心まで離れてしまう日が来るのが怖くて、自分から手放した。


だけど、源は…?

どうしてあんなにあっさり、別れを承諾したりしたの…?


あんなに大きくて、私を包んでいてくれた愛は、今ではもう、感じられない。

源の心も全然…分からない。



「…ジントニック、お願いします。」

「ちょっ、加藤さん!?」



ジントニックを呑み始める前に、恵也にメールを入れておいた。

『迎えに来て。』


あまりケータイを使用しない私だから、残っている入力した文字の履歴は、最近のものじゃない。


“むか”

そう打つだけで、迎えに来てと出てくる。


それはいつも源に向けていたものだったのに。今ではもう違う。



「加藤さん…。」



ジントニックを呑み干して酔いが回り始めた私を、悲しげに見つめる彼女。



「源…。」



口から漏れた言葉は、酔っ払いの戯れ言。
ただ、それだけ。
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