あの加藤とあの課長
「あ、三富さん。」



机に突っ伏した私の耳に、彼女が恵也の名前を呼ぶ声が届いた。



「うわ、陽萌潰れとんの?」

「寝てしもたみたいで…。さっきまで起きてたんですけど…。」

「はぁ…。」



そう溜め息を吐きながら、彼女とは反対隣に腰掛ける恵也。



「あーっと、ウーロン茶ください。」

「かしこまりました。」



ウーロン茶を注ぐ水音と、グラスをテーブルに置く音がした。

そして、私の髪を撫でる、優しい手。



「…三富さん。」

「ん?」

「……加藤さんと、付き合うてるんですよね?」

「…まぁ、ね。一応。」



曖昧に濁しながら答える恵也。

きっと、また私がトラブルになることを恐れての返答。



「…ええんですか? このままで。」

「何が?」

「…加藤さん、まだ、生渕さんのこと…。」



言いにくそうにそこまで言って、彼女は口を噤んでしまった。

この話題、私、聞いてていいのかな。
ていうか、聞かなきゃ、駄目?


正直、逃げ出したくて堪らない話題だった。
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