あの加藤とあの課長
「そんなことくらい、知っとる。」

「え…。」

「俺はコイツとはわりと長いんや。せやから、ある程度のことは見てれば分かる。」

「三富さん…。」



私の頭に、遠慮がちに触れる恵也の手を感じる。

優しくて温かくて、安心する。



「…さすがに10年経ってれば変わっとるところもあるやろ。現にコイツ、タラシやったらしいしな。」

「そうらしいですね…。」

「俺も最終的にそのうちの1人になるのかも知らん。そう分かっとっても、それでもええなんて、思てまう。」



私の頭から恵也の手が離れていく感じがして、その後に靴音がした。



「…こういうときに、あぁ、10年経ったんやなーて感じる。」



そう言い終わるや否や、恵也は私の肩を少し強めに叩いた。

少し、痛い。



「陽萌、帰るで。」

「……ん…。」



あんな話聞いてしまった後だから、結構気まずかったり。


ノソノソと起き上がると、やっぱり甘えたくなって、恵也の首に腕を回した。

呑むと駄目だな、特に。



「陽萌…?」

「…恵也…。」



酔いはすぐに冷めてしまった。というか正確には、全然酔わなかった。あの、私が。


どういうわけか、源と別れて以来、呑んでも呑んでも酔わない。

溺れてしまいたいのに、許してはくれない。
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