あの加藤とあの課長
「駅で会ったとき、思ったんです。加藤さん、やつれました。顔色だって悪いし。」



気が付けば増田ちゃんは、とても悲しそうな顔をしていて。



「加藤さんが本社にいた頃…、2人が付き合ってからですけど、課長がよく言ってたんです。」



突然出てきた源の話題に、少なからず心臓が騒がしくなる。

今日ここまで、綺麗に源のことは話題に上がらなかったのに。



「『陽萌は自分のことに無頓着すぎるところが多々ある』って。『だから心配だ』って…。」

「…そっか。」



2本目になるチューハイの缶を両手で包み込む。

火照り始めた体に、缶の冷たさが心地良い。


付き合ってた頃もよく言われてたな…。



「自分のことにもう少し関心を持て。自分をもっと大事にしろ。」

「え…?」

「よく、源に言われてたなぁと思って。」



缶のプルタブを開けながらそう微笑むと、増田ちゃんは一気に顔を皺くちゃにした。



「加藤さんっ…。」

「…もう、過ぎた話だよ。」

「っ、加藤さっ。」



ついに、増田ちゃんの頬を涙が伝う。



「もー、なんで増田ちゃんが泣くのさぁ。」



軽い調子でその肩を叩けば、一層激しく泣く増田ちゃん。
< 350 / 474 >

この作品をシェア

pagetop