あの加藤とあの課長
「いいも何も、振ったのは私だよ? この道を選んだのも私。」

「でもっ…。」

「増田ちゃん。」



増田ちゃんに微笑みかけた。

そのつもりだったけど、上手く笑えた自信は、欠片もない。



「もう…後戻りなんて、できないよ…。」



もう、後戻りできない。
戻るには、私はいろいろ諦めすぎた。


源の手を握り続けること。

源を信じ続けること。


失くなっていく居場所に焦り、悲しみ、絶望を感じた。



「…私、甘ったれだから。」



側に寄り添って甘えさせてくれて、すぐに抱き締めてくれる人がいないと駄目なんだ。

私は、弱いんだ。



「…逆戻りしたのは私もだよ。」



されるがまま、流されるまま。
あの頃と何も変わらない。

泣き止んだはずの増田ちゃんは再び嗚咽を漏らして泣き始めた。



「じゃあっ、なんで泣いてるんですかぁっ…!」



そう言われて、初めて頬を伝う雫に気が付いた。



「っ…。」



悲しくなんてない。
泣くな。


暗示のように言い聞かせたって、そんなの無駄なのに。

私は必死に涙を堪えようと唇を噛み締めて目を閉じた。



―――『噛むな。』


頭の中で声が聞こえた気がして、涙が溢れた。
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