あの加藤とあの課長
―――『血が出る。』



そう言って、私の唇に触れて。

泣くのを必死に堪えようとする私に、それを許さない。


唇を噛むのを止めれば、そうだと微笑む。



「源っ…。」



今さら気付くなんてね。


あなたは暗に、“泣いていい”と。“我慢しなくていい”と。

そう、言ってくれていたんだね。



「っ、う…。」



だけど、そう言ってくれる源はもういない。

口の中に鉄の味が広がった。どうやら、口の中が切れてしまったらしい。



「加藤さんっ…。」

「増田ちゃ…。」



増田ちゃんと抱き合って涙を流した。


馬鹿だ。
私には源が必要なのに。

それはあの時から、変わってないのに。



「源ぇっ…!」



会いたい。


抱き締めて。

触れて。

呼んで。


源…。
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