あの加藤とあの課長
「課長とヨリ、戻さないんですか?」



一晩中泣いて、泣き疲れてそのまま眠りに就いた。


翌朝私にそう問うた増田ちゃんの目は、目も当てられない程に腫れていた。

恐らく、私も人のことは言えない。



「うん。」

「なんでですかっ…。」



そう詰め寄る増田ちゃんの目には、涙が浮かぶ。

まだ枯れないのか。


そう思ってしまったのは、もうすでに私がこの状況を客観的に見始めているから。



「私には今があって、源にも今がある。」



そう言うと、増田ちゃんは口を噤んでしまった。


私には今恵也がいて、源は前の状態に戻りつつある。

こうやって別々の道を歩んで、いつか“出会う人”がいるはずだ。


それがお互いであったなら、その時はきっと手を取ろう。



「全部投げ出せたら、いいのにね。」



ううん、違う。
全部投げ出したのは、私だ。

私は楽な方に逃げてしまった。



「そんなのっ…!」



増田ちゃんは声を荒げて言い放った。



「そんなの、感情の前には無意味です!」

「……。」

「恋愛に於いて、そんなの通用しません!」

「そう、かな。」

「…本当の恋とか愛とか、そういうものを前に、理性なんて吹っ飛ぶ瞬間がきます…!」

「……そっか。」



こうなるまでに。

私の理性は吹っ飛ばなかった。


それは要するに、本物じゃなかった。そういう、こと。
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