あの加藤とあの課長
やっぱり混乱した頭ではよく理解できなくて。



「生渕さんと別れたんも、本望やないやろ? 陽萌は距離が、怖かったんや。」

「…うん。」

「俺とのことがトラウマになっとるんやろ。」



それには間違いないと頷くことができた。



「…陽萌。逃げたらアカン。それに、あの頃とはもう違うんや。」



私に体ごと向き直ると、両手で、握っていた私の手を包み込んだ。

恵也の手が、温かかった。



「陽萌。好きやったら、諦めたらアカン。」

「…うん。」



そう答えた私の声はしっかりとしていて。

決意が固まった私を認めて、恵也は安心したように穏やかに笑った。


かと思うと次の瞬間、困ったような笑顔へと表情を変えた。



「変わらなアカンのは、俺の方やな。」

「え…?」

「あの頃から変わっとらんのは俺の方や。陽萌のこと好きなまま。後悔して、引き摺って、ここまできてもうた。」



そう言って、自嘲気味に笑った。



「もう俺も、ええ加減卒業せんとな。」

「恵也…。」

「“あの時別れてへんかったら”はもうおしまいや。」
< 371 / 474 >

この作品をシェア

pagetop