あの加藤とあの課長
そう言って、片手を私の手から離してタクシーのドアを開けた。



「もっかい言う。別れよう、陽萌。あの時終わらんかったんを、今度こそ。ちゃんと終わらせよう。」

「……うん。」



今度こそ、終わりに。

頷いた私の瞳から、涙は零れなかった。



「お前は変わらんくてええ。むしろもう変わるな。好きな人に一途で、真っ直ぐな陽萌でおって。」



そう言いながら掴んだ私の手を引き寄せ、そのままタクシーに押し込んだ。



「○×病院に。」



口を動かしながら運転手に一万円札を渡した。

取り乱していた心はいつの間にか落ち着きを取り戻していて。



「…行ってき。」

「…いってきます。」



穏やかな声で優しく微笑んだ後、タクシーのドアを閉めた。

これでいい。


こうやって私たちは過去と決別して、前へ進んでいくんだ。



変わってても変わってなくても、もうどうでもいい。

源が好き、その気持ちだけ持ち続けよう。


もしももう源の気持ちが離れていたっていい。もう、甘えない。

源に誠実でいたいと、そう思うから。
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