あの加藤とあの課長
私の片頬を摘まんで、源は眉間に皺を寄せた。



「…三富 恵也。」



すごく言いたくなさそうに名前を出すから、思わず顔が綻びそうになった。


ゴールデンウィークに家に来た増田ちゃんが、噂になってるって言ってたっけ。

源が知らないはず、ないよね。



「別れてきた。…高校生の頃打てなかった終止符を、打ってきたよ。」



そう微笑むと、表情には出なかったものの、源の目に優しい色が宿った。

相変わらず口よりも物を言う目だ。



「…そうか。」



そう言って私を抱き締め直した。



「…少し、予定が早まったな…。」

「え…?」



顔を上げて源を見れば、得意気に笑う源がいたもんだから、私は間抜け面を晒す羽目になった。

予定が早まった…?



「陽萌が戻ってきたら勝負だと思ったんだがな…。」

「は…、え?」

「…陽萌がアイツと付き合いだしたのは、本社でも有名な話だった。」

「…うん。」

「別れ話をされたあの時、引き留めることはいくらでもできた。だけどあの時拗れたら、それこそ一貫の終わりだと思った。」



私の疑問の答えを、私が訊く前にくれる。
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