あの加藤とあの課長
「俺の課長補佐は、お前にしか務まらないんだからな。」

「ん、うん…!」



源に抱きつく腕に力を込めて、ギュッと抱きつく。



「お前、今日はどうするんだ?」



気が付けば外は暗くなっていて、きっともうホテルでは宴会が始まってる。

懇願するように源を見つめると、源の口からふっと漏れた笑い。



「泊まってくなら、泊まっていけ。」

「うんっ。」



満面の笑みでそう返事をする私に、優しく笑った源が顔を近づける。

ふと瞼を下ろし始めた私に、源が尋ねた。



「どこまで許した…?」



どこまで、って…。



「キスも、してないよ。」

「は? マジで?」



目を細めていたはずの源はくわっと目を見開くと、顔を離した。



「ま、マジ…。」

「…くっ。」

「……ちょっと。」



肩を震わせて笑い出した源の肩を軽く叩く。ついでにその顔を睨み上げる。

だけど思いの外ツボに嵌まったらしくて、なかなか笑いが止まらない。



「中学生じゃあるまいしっ…。」

「…ははは。」

「まぁでも。」



何とか笑うのを止めた源の目には、薄っすら涙が浮かんでいた。

指の背で私の頬をスルリと撫でて、今度こそ顔を寄せる。



「俺的にはよかったな…、摘まみ食いされてなくて。」



照れ隠しの文句は、源の唇に吸い込まれていった。


あんなこと言ったくせに、いざ私がキスされてたらヤキモチ妬くくせに。

心の中でそう悪態を吐く。


こんな風に思えることにも、幸せを感じた。
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