あの加藤とあの課長

働く別の思惑

辞令が出たのは、社員旅行後の最初の出社日だった。



「内示すっ飛ばして辞令なんて、堪忍なー。」



そう言いながらも、どこか嬉しそうに笑う部長。

本当、内示なしの辞令なんて迷惑なくらいだ。



「本当はもうすぐ本社に召集かかって、出向終了か、そのまま異動の選択のはずやったんやけど…。」



と言う部長。

きっと、増田ちゃんが言っていた本社へのお呼び出しのことだ。



「あれ、前に来た生渕くん。」



突然出た源の名前に驚いた私に、ニヤニヤと笑う部長は続けた。



「あれはなかなかの曲者やで。」

「…と言いますと?」

「彼、本社で君の他の課長補佐の話が出る度に、『加藤以外務まりません』とか言うて蹴っとったらしいやん。」



…源なら、やりかねない。

苦笑いを零す私に、部長はニヤニヤ笑いのまま言った。



「それでな、本社の部長さんがアカン思て、人事に何度も掛けあったらしいんや。君を本社に戻すよう。」



そこまで言うと、部長はスッと笑顔を消した。



「けど、人事は取り合わんかった。」

「…はぁ。」

「今回生渕くんが倒れたことで人事も折れたらしいけど…。」



部長はすっと顔を伏せると、言い難そうに顔をしかめた。
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