あの加藤とあの課長
「超溺愛ですね…。」



恵也はそう言って、苦笑した。



「お前には関係ない。」



そう言って私の肩を抱き寄せた源。

数ヶ月前家に来たときとは違い、恵也に対し敵対心にも似たものを剥き出しにする。



「あーやだやだ。」



恵也は持っていたキャリーを源に渡すと、悲しげに微笑んだ。



「もう、大丈夫そうやな。」

「…恵也、ありがとう。」

「おー。」



次に会うときには、きっと、彼の隣に。

素敵な人が、いますよう。


彼が、幸せでありますよう。



「そろそろ行くぞ。」



私の右手を、源の左手が包み込む。



「…指輪。」



握ったときにその感触に気が付いたのだろう。すっと指輪を撫でる。


別れていた間は小物入れに仕舞われていた指輪。

ヨリを戻して以来、こうして右手の薬指に復活している。



「東京に戻ったら、またネックレスになっちゃう。」

「…そうか。」



あんまりにも残念そうに言うから、私は笑いを堪えきれなかった。



「早よ乗らんと、置いてかれるで。」



そんな私たちに呆れながら新幹線を指差した。



「行くぞ。」
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