あの加藤とあの課長
恵也に促され、源は私の手とキャリーを引きながら、新幹線に向かい歩き出した。

慌ててそれについて行きながら、恵也を振り返る。



「恵也!」



名前を呼ぶと、恵也はふと顔を上げた。



「私っ、恵也にまた会えてよかった! ありがとう!」



あの頃から時が動き出した。
きちんとけじめをつけることができた。

それは私にとっても、恵也にとっても、いいことだったはず。



「…俺もや。」



そう言って、今度は優しく穏やかに笑った。



「陽萌。」



その笑顔が、あの頃の恵也と重なる。

好きで好きで、大好きだった恵也。今ではもう、過去となった。



「好きやった。」

「…いい人、見つけてね!」



その言葉に頷くと、恵也は背を向けて、歩き出した。

その背中を見つめていると、右手を引かれた。



「源…。」

「席、取るぞ。」

「あ、うんっ。」



手を繋いだまま、車内へと足を進めた。

もう、振り返らない。
過去を見たり、しないから。
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