あの加藤とあの課長
わけが分からなくて軽くパニックを起こす私に、ニヤリと笑いかけた。



「こりゃしばらくは楽しめそうかもな。」

「…。」



なぜ、楽しそうなんだ。

思わず不貞腐れると、直人はさっと表情を一転させて苦しそうに言った。



「俺、ずっと焦ってたから、余裕なくて。だから、陽萌が嫌がるのとか全部無視して突っ走ってた。」

「…うん。」

「ごめん、キツかったよな。」



私の頬に遠慮がちに触れる直人の手が、微かに震えている。



「俺、本当に陽萌が好きだった。」



その手が苦しさと切なさを連れてくる。



「陽萌が俺を好きになってくれないことなんて分かってたのに…、欲張りすぎたな。」



私は黙っているしかできなくて、直人の目を真っ直ぐ見つめたまま口を結んだ。


ごめんね?
ありがとう?

いつもそう、この思いをどんな言葉で伝えていいか分からない。



「好きだった。離れていかれるのが怖くて、俺のものだって安心もできなくて、陽萌にぶつけた。」

「……愛されてるのは、伝わってきたよ。」



そう微笑むと、直人は泣いているかのように笑った。
< 40 / 474 >

この作品をシェア

pagetop