あの加藤とあの課長
「いってきます。」



おもむろに私を抱き締めて、耳元でそう囁く。

その背に腕を回して思い切り抱きついて、それに応える。



「いってらっしゃい…!」



触れるだけのキスを交わして、源は搭乗口へと向かって行った。


どんどん遠ざかっていくその背に、手を伸ばしそうになるのを必死に抑えた。



窓の外の飛び立つ飛行機をボーッと眺めて、しばらく呆けていた。


もっと、強くならなきゃ。
敏ちゃんの言う通り、きっとここが正念場。

泣いちゃ駄目。



「うっし、帰ろ!」



クヨクヨしてたって、何も始まらないし!


帰ったら家事を済ませて、食糧の買い出しに行こう。

余裕があったら、サボり勝ちだった家の掃除なんかもしてみようかな。


あとあと、たまには雑誌とか本とかを読んでみるものありかも。


そんな風に考え出したらなんだかワクワクしてきて、私は家路を急いだ。
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