あの加藤とあの課長
「…め、陽萌!!」



晋ちゃんに名前を呼ばれて我に帰ったときには、オフィスには私と晋ちゃんしかいなかった。



「晋…ちゃん…。」

「どうしたの? 何かあった?」



そう顔を覗き込んでくる晋ちゃんの表情は、心配で一杯だった。



「…分からないの。」

「何が?」

「分からないのっ…!」



あの人は、私と源が付き合っていることを知らないはず。

なら、あんな嘘をついたって向こうにメリットはない。


ということは、それが真実だということで。



「とりあえず落ち着いて、ね?」

「う、ん。」

「今日はもうとりあえず帰ろう?」

「……帰りたく、ない。」

「え…?」

「帰りたくない。」



頭を冷やして冷静にならなきゃいけないのに。

あの部屋は、源と、その思い出で溢れ返っているから。


絶対に冷静でなんて、いられない。



「…家、来る?」

「…行く。」

「よし! んじゃとりあえず行こ! ね。」

「うん。」



呑んで、寝て、朝起きたら…、きっと、夢だったと思えるから。

そう信じて、晋ちゃんの家へと向かった。
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