あの加藤とあの課長
「…混乱しているだろうね。」



社長は優しくて、良い人。
そんな評判をよく聞く。

なのに……―。


今私の目の前にいる人からは優しさを欠片も感じられない。



「私が源くんに目をつけたのは、一昨年の秋、彼が課長に昇進したときだ。」



呆然と話を聞いている私に、淡々と、けれど楽しそうに言葉を続ける社長。

きっと、聞いてはいけない。



「すぐに手を打とうと思ったんだがね、彼も忙しそうだったんで、タイミングを伺っていたんだよ。」



課長になりたての頃、源はとても忙しかった。それは見ているだけで十分分かった。

若いからと、舐められないように。


がむしゃらなのが、伝わってきた。



「だけどうかうかしていたら彼が君を課長補佐に指名してね。もしやと思ったんだが…。」



やっぱり、私を課長補佐に指名したのは源だったんだ…。



「気が付いたら、君たちが交際を始めていた。」



クスリと笑うと、社長は背もたれに背中を預けて、天井を仰いだ。

私はそんな社長を眺めるしかできずにいた。



「あれは欲のある男だ。君のことは遊びだろうと思ったし、次期社長という地位に飛び付くと思っていた。」
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