あの加藤とあの課長
何とか業務を終えて帰宅すると、暗い部屋が私を迎えた。


習慣というか、無意識でもちゃんと仕事をこなせることに感謝だな…。

あれからもう2日経った。


ただ無心になって仕事をひたすらこなすだけの日々が続いていた。



「…何かもう、疲れたよ…、全部…。」



ソファに倒れ込んで、固く目を閉じた。

その時、テレビすらついていない静かな部屋に、ケータイの着信音が響き渡った。



「……源…。」



いつぶりだか、もう分からないくらい。
すごく久しぶりだ。


あぁ…、この感じ、出向のときに似てる。
もう繰り返さないと、決めたのに。

震える指で、通話を押した。



「もしもし…。」

『陽萌。』



“もしもし”でもなく、“久しぶり”でもなく、最初に呼んでくれた。



「源…。」



真っ直ぐに、心に降りてきた。

(…そうだ。)



『元気か?』

「うん。源も、元気?」

『あぁ。こっちに来て太るかと思ったんだが、それもないな。』

「そっか。」



少し、笑いを交えて。

なんて、穏やかな時間。



「あのね、源。」



カーテンを少し開けて、空を見上げた。

この同じ空の下、源も頑張ってる。たくさんの物を、背負いながら。



「私、待ってるから。だから、早く…帰ってきてね。」

『……あぁ。』



何を迷っていたんだろう。
何を信じていいか分からないだなんて。

始めからそんなの、決まってる。


別れている間も、ずっと源は私を信じ続けていてくれた。


それがどんなに辛くて苦しいことだったか。

私との思い出に囲まれて、ただ信じて、この部屋で待っていてくれたんじゃない。


今度は私が源をただ信じて、この部屋で待つ。



『あと少しだ。』

「うん…!」



私は源だけを、信じているから。
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