あの加藤とあの課長
「…今日の、社長からの呼び出し。」



突然切り出された話題に、思っていたよりも思い切り肩が跳ねてしまった。

そんな私に気が付いて、ソファに隣り合って座る私の肩を強く抱いて、言葉を続けた。



「海外研修のはどうだったとか、そんな世間話みたいなもんだった。」

「そ、っか…。」

「……ちゃんと、全部話さなきゃな。」



ふと源を見上げると、源は困ったように微笑んだ。

かと思うと、私の両脇に手を差し込むとそのまま私を抱き上げて、膝の上に源と向かい合うように乗せた。



「は、源! お、下ろしてっ…。」

「嫌だ。」

「やだって、そんな…。」



もちろん初めての体勢じゃないけど、何度やっても恥ずかしいもので。

私の顔は今、間違いなく真っ赤だ。



「…8月末に、給湯室で海外研修のことを話した時のこと、覚えてるか。」

「…うん。」



すごくショックだった。

あんなに弱った源を見たのは初めてってくらいだったし、早々忘れはしない。



「あのときにはもう、社長に見合いの話をされてから少し経ってた。」

「…うん。」

「冗談だとは思わなかったけど、あそこまで本気だとも思わなかったんだ。」

「…うん。」
< 449 / 474 >

この作品をシェア

pagetop