あの加藤とあの課長
「だって、俺なんて普通の一般人だぞ? まさか逆玉の輿の話がくるなんて思わなかった。」



細めることはあれど、決して目を逸らそうとはしない源に、少し嬉しくなっている自分がいた。



「…本気で考えてくれないかと言われて、海外研修の話をされた。このときはまだ、見合いはしてなくて。」

「…うん。」

「スキルアップに繋がることは間違いないから、海外研修には行くことにした。」

「うん。」

「……その関係で話があると呼び出された先に行ったら、社長の娘がいた。」



さすがに一瞬目を伏せた源だったけど、すぐに私の目を見てくれる。

そんな源に、私は頷き返すしかできなかった。



「結果的に、社長の娘と見合いはした。…感覚は、ただの会食だったけどな。」

「…そっか。」

「もちろん食事しただけだ。だけど、陽萌に黙ってたことに変わりはない。悪かった。」

「…ううん。独りで、大変だったでしょ…?」



その頬に手を伸ばすと、その手を上から包み込むように握られる。



「お前こそ、あの好奇の眼差しと噂、1人で…、キツかっただろ。」

「ううん、大丈夫だったよ。」

「…俺にもっと、力があればいいのにな…。」



源はきっと、もう一家の大黒柱でいる気分なんだろう。
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