あの加藤とあの課長
そんなに気負うことはないのに。


私を養っていかないといけないとか、この生活を維持できるよう稼がなきゃいけないとか、そんなことを優先しているんだろう。

自分自身のことはほぼ棚に上げて。



「ねぇ、源?」

「ん…?」

「私も源も確かに物理的には独りだけど、精神的には2人でしょ?」

「…あぁ。」

「もっと、頼って。もっと言って? その心の中に溜めてること、苦しんでること…。全部、全部。」



源の頭を抱えるように抱き締めれば、背中に回った源の腕に、力が籠る。

源の心の中全部、覗けたらいいのに。



「…本当は、軽く脅されたんだ。」

「…え?」



パッと源から離れて顔を覗き込むと、気まずそうに視線を逸らす源がいた。



「…脅された?」

「陽萌を、クビにするって。」

「…私を?」

「あぁ。」

「……そっか。」



私はそっと目を閉じた。

昼間、増田ちゃんが言っていたことが脳裏を過る。


――『あの2人、根っからの仕事人間じゃないですか。』


仕事人間なのは、仕事が好きだからで。

それを増田ちゃんや晋ちゃんだけでなく、源も重々承知してる。
だから源は、私を守ろうとしてるんだ…。
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