あの加藤とあの課長
重厚な扉をノックすると、響いたその音に緊張を覚えた。


ファイルを持った手が、少し震えた。

ノックをした源は仕事モードに入っていることもあり、そのポーカーフェイスを崩さない。



「失礼します。」



慣れた様子で室内に入っていく源に少し寂しさを覚えながら、そのあとを追った。



「やぁやぁ生渕くん、呼び出してすまないね。」

「いえ。」

「加藤くんも、すまないね。」

「あ、いえ…。」



いつかと同じように窓から外を眺めている社長は、どんな顔をしているのか分からない。



「さてと……。」



後ろで手を組みながら振り返った社長は、いつも通り優しげな笑みを浮かべていた。

けれど、その目は笑っていない。



「なぜ呼ばれたかは分かっているね、加藤くん。」

「……はい。」



源と別れろ。
どうせそれでしょ?



「なら、話は早いね。」



笑みを深めると、少し首を傾げながら、威圧的な目で私を真っ直ぐに見る。

隣の源はといえば、相変わらずポーカーフェイスを崩さない。



「心は決まったかね?」

「……はい。」
< 459 / 474 >

この作品をシェア

pagetop