あの加藤とあの課長
「取引先の片野社長とずいぶん懇意にしているそうじゃないか。」



バレていたのか…。



「ご心配には及びません、片野社長は既婚者ですから。」

「既婚者……?」

「はい。奥様の都合上公にはなっておりませんが、近日中に解禁になる、とのことです。」



そう微笑むと、悔しそうに顔を歪める社長。



「……社長。」



隣の源を省みることなく、社長に言葉を投げ掛ける。



「私のクビを餌に、源を脅したそうですね。」

「人聞きの悪いことを言わないでくれるかね…?」



若干私を睨む社長を横目に、私は持っていたファイルからそれを取り出した。

そしてそれを、社長のデスクに置いた。



「…社長。これが、私の答えです。」



片野さんに見てもらって、人生で初めて書き上げたそれ。


大したものじゃないけれど。

けれど、私の人生を左右する紙切れ一枚。



「“退職願”…?」



呆然とそれを眺めた後、勢いよく顔を上げて私を見つめる。

とその瞬間、隣からものすごい勢いで肩を捕まれ、そのままそちらを向かされた。



「陽萌…!?」



そこにいたのは生渕課長ではなく、源だった。



「いいの。源の隣にいられなくなるくらいなら、私はここを辞める。」

「お前…。」

「大丈夫。再就職先は決まってるから。」
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