あの加藤とあの課長
社長に向き直ると、言葉を紡いだ。



「片野社長より、我が社に来ないかと誘いを受けました。話を受けるか否かは、社長次第です。」

「私……?」

「社長がその退職願を受理するなら、私はここを辞め、片野社長の下で働きます。」



ハッキリとそう言い切った私を暫し凝視した社長。


本当はただ辞めてしまおうかと思った。専業主婦にでもなろうかと思った。

だけど源と結婚するなんて話はないし。


それはそれで源の負担になるだろうし、何より源は私が退職することを許さないと思った。


自分を犠牲にするって分かってたから。



「………社長。」



不意に言葉を発した源に驚いて横を見上げれば、すべて迷いを断ち切った、そんな表情をしていた。



「加藤の退職願を受理するのならば、これも受理していただけませんか。」



そう言った源がスーツの内ポケットから取り出したのは、私が出したそれと酷似していて。

社長のデスクに置かれたそれを信じられない気持ちで見つめていた。



「源!?」



掴み掛かる勢いで源に詰め寄ると、何とでもないと言うように肩をすくめた。
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