あの加藤とあの課長
ただの上司だったのに。

知り合ったときには源はタラシで有名だったし、私も人のことを言えた口ではなかった。


源に求められたとき、惹かれていた自分に気が付いた。

だけど、正直まさかここまで深く入りこむことになるとは思わなかった。



「本当、世の中何があるか分からないね…。」

「そうだな。」



軽快なハンドルさばきで山を登っていく源。

山の中腹辺りまできた頃、源は突然脇へと逸れた。



「え、本当にどこ行くの?」



てっきり山頂から夜景とかかなーなんて考えていた私は、その不意打ちに驚きを隠せずにいた。



「内緒。」



相変わらずの笑みを浮かべながら、山の中へと入っていった。

そして車を走らせること約5分。



「到着。」



そう言って源が車を停めた。


辺りを見回してみるも、辺りは真っ暗で特に何もない。

完全に不安になり、少し怖くなった私を他所に、源は車を降りた。


ぐるりと助手席側に回り込んだ源は助手席のドアを開けて言った。



「おいで。」



そんな風に言われてしまったら、行かざるを得ない。



「…ずるい。」



差し出された手を握り、車を降りる。
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