あの加藤とあの課長

あの加藤とあの課長

『加藤さーん!』


そう、昔のように呼ばれることはなくなった。



「生渕さーん、これチェックお願いします!」

「うん。」



ファイルを受け取って、それに目を通し始める。

あれから早1年以上が経過していた。
今ではもう私も生渕 陽萌。



「オッケー。」

「ありがとうございます!」



昨年7月に挙式を上げた。

現在は相変わらず課長補佐を務めている。そして旦那様はと言えば……。



「生渕課長、これに印をお願いします。」

「あぁ。」



こちらも相変わらず、課長を務めている。

ただ、あれから1年経っても変わらなかったこの状況に変化が生じ始めている。



「今泉くん、これもよろしく。」

「はい。」

「あと、これはあっちの会社との取引内容ね、大雑把だけど。」

「分かりました。」



それは、課長補佐の引き継ぎ。


(休憩に飲み物淹れてこよう。)

そう思い立って給湯室へ行き、いつものようにココアとコーヒーを淹れる。



「……この光景も、見納めか。」



振り返れば、そこには源がいて。



「……そうだね。」



源が寂しげに笑うもんだから、つられて寂しげに笑ってしまった。

私は来月、この職を離れる。
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