あの加藤とあの課長
「いつまでそうしているつもりだ。」



痺れを切らしたかのような声に振り向くと、傘を指して突っ立った課長がいた。



「ど…して…。」

「忘れ物。届けに行ったんだが。」



と私のジャケットを掲げて見せた。

あ…、課長の部屋に忘れてたのか…。私の馬鹿…。



「明日でもよかったのに…。」



そう呟くように言うと、それすら聞き逃さなかった課長は肩をすくめながら言った。



「気になったからな。」

「え?」

「お前の様子がおかしかったから。」



私、課長はそれなりに私のこと分かってるんじゃないか、なんて思っていたけれど。

この人はきっと、私が思う以上に私のことを分かっている。



「風邪引く。早く中に入れ。」

「…私、残念ながらそんな可愛らしい体してないんです。」



雨に濡れて風邪だなんてそんな可愛らしいこと、今までなった試しがない。



「じゃあ、俺が心配だから。」



課長は私の元へと歩み寄ってくると、私を傘の中に入れた。



「だから、早く中に入ってくれ。」
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