あの加藤とあの課長
辞令が出たのはそれから数日後、引き継ぎが終わったのはそれからさらに1週間後だった。

1週間という短期間でそれを終えられたのは、私の後任が元々係長補佐だった晋ちゃんのおかげだろう。



「今日から課長補佐になります、加藤 陽萌です。よろしくお願いします。」



仕事モードに完全他人行儀という武装した状態で、彼にそう言った。

彼から返ってきたのは「あぁ」って、それだけ。



「これ、頼む。」



いきなりドカンと、書類の山を私のデスクに乗せた彼。これは残業、確定。

彼は……課長は、仕事の鬼だ。


生渕 源(きぶち はじめ)その人は我が社のホープで、30歳という歳でその座に就いた。

ちなみに、来月5月で31になる。
学年でいうと6つ上だ。


そんな彼は笑うこともなくいつもポーカーフェイスで、唯一、眉間に皺を寄せるくらいだ。


しかも周りにもとても厳しく、私が入社した当初からついていた“鬼”という影での通称は正に的を射ていた。



「うしっ。」



髪をポニーテールに束ねると、眼鏡をかけてパソコンに向かった。
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