あの加藤とあの課長
課長は煙を深く吸い込んで言った。



「で、何で泣いてた?」

「……なんて、言うんですかね。」



普段なら言わないはずなのに、課長相手だとなぜだか弁舌になるから恐ろしい。


よくよく考えてみたら、私が泣いてる理由を訊いてきた人なんていないんじゃないか?

知り合いの前じゃ決して泣かないし。


声をかけてくるのは飢えた男。

失恋したの? とかそんなことを言われるから曖昧に濁して、寂しさを埋めていた。



「罪悪感ですよ。」

「罪悪感?」

「私、好きでもないのに付き合ってるばかりで、でも相手の愛は伝わってきて。それが、苦しいんです。」



愛されるばかりは辛い。



「泣いたらすっきりするような気がして。」

「…風間か。」

「今回はそー…うですねぇ。」



なんだか気まずくて苦笑いする私の側に、煙草を灰皿で揉み消した課長が来た。



「……課長?」



課長って、大きいんだ。目測だけど、身長180cmはあるだろうなぁ。

私が160cmだから、男の人の身長はそれなりに気にする。


そういえば、私がヒール履いても私よりも全然大きいもんなぁ…。


なんて呑気に考える私の頬に課長の手が触れる。



「課長…?」

「泣くな。」



一言、ポツリと呟いた。
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