あの加藤とあの課長
けたたましい音を立てて鳴り響いた目覚ましを止めると、私は溜め息を吐いた。



「寝れなかった…。」



散々キスするだけキスして自室に戻っていった課長。


結局、戸惑いと苦しさと緊張にも似た感情に支配された私は眠れずに朝を迎えてしまった。

きっと課長は何事もなかったかのように飄々と私の前に現れるに違いない。


そう思うとなんだか悔しいものが…。



「なんなの…。」



たかがキスだけでこんな風になったの初めて。

ムシャクシャしながら煙草に火をつけると、思いきり吸い込んで吐き出した。



私が煙草を始めたのは高校生の頃。

買い与えてくれる先輩がいるような環境にいたのが悪かったのかもしれない。


女性向けが広く売られるようになってからはそれを吸っている。


ただ単に悪いことをしたかったわけじゃない。良い、言い訳になると思ったんだ。



「ふぅ…。」



溜め息を吐く言い訳に。



「これから課長補佐…やってけるかなぁ。」



煙草を揉み消して、昨日とは別のスーツに袖を通す。

気が付いたらゴールデンウィークも終わって５月中旬、まだ普段からジャケットは羽織ってる。
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