あの加藤とあの課長
「おはようございます。」

「おはよう。」



課長の部屋を訪ねると、課長は私の予想通り動揺すらしない。

仕事モードへの切り替えのお早いこと。


私は仕事をしているときしか切り替えない。
ずっと肩に力入れてたら疲れるからね。



「行くか。」

「はい。」



チェックアウトして課長の車に乗り込むと、昨日は気にならなかった距離にどぎまぎしてしまう。



「お前。」

「……なんでしょう。」

「男癖悪いくせに、案外余裕ないな。」

「なっ…!」



驚いて横を見ると、課長は前を向いたまま意地悪く笑っていた。



「…課長は余裕綽々すぎです。」

「そう見えるならそれでいい。」

「……え、緊張してるんですか?」

「いや。」



なんだそれ。



「どうやって攻めようかワクワクしてる。」



あの課長がワクワクしてる。
それも、どうやって攻めようかで。

しかもその対象は、私。


固まる私に意地悪く笑う課長はどこか楽しそうで。



昨晩から降り続く雨の中、車を走らせながら私に言った。



「俺の本気は怖いぞ。」



だなんて。
< 54 / 474 >

この作品をシェア

pagetop