あの加藤とあの課長
「おい、陽萌!」



掴んだままだった煌の腕が私の手を振り払う。私はその場に突っ立ったまま俯いていた。

どうしよう、まさかこんなことになるなんて。



「…煌。」

「なんだよ。」

「話、通しておいてね。」



私はグッと唇を噛み締めた。


なんとも言えない感情が込み上げてきて、無性に腹立たしい。

それは湊に対してなのか、自分に対してなのか。



「あの人さぁ、まだ陽萌のこと好きなわけ?」



私に歩くよう促しながら問う。



「分かんない。」



付き合ってたとき、自惚れではないと言い切れるほどに湊は私を溺愛していた。

でも、あれからもう6年…。


まだ、なんてこと、あるのだろうか。



「なんにせよ、これは仕事。ちゃんと割り切るから。」

「…まぁなんでもいいけど。昼飯食ってかね? 俺腹減ってヤバいんだけど。」



とお腹を擦る。

そういえば、お腹が空いたような、空いてないような。



「煌の奢りね♪」

「なんでだよ、陽萌の方が給料いいだろ。」

「えぇー。」

「…今回だけだからな。」

「やったっ。」



煌の腕に自分の腕を絡ませると、煌は仕方がないと言いたげに頬を緩めた。
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