あの加藤とあの課長
あの課長が。
私に振り回されてる。



「ふーふふー♪」



なんだか面白い。いつもと違う課長も、このくすぐったい感じも。

課長に背を向けてついでにと課長の分のコーヒーも作り始める。



「いつまでも笑ってるな。」

「ふ、ふひゃ!」

「くっ、変な声。」



耳元で微かに笑う声がする。

笑っていたら、急に後ろからウェストに手を回されて抱きすくめられた。


笑ってたから変な声になっちゃった…。



「コーヒー…。」

「課長の分です。」



「飲むでしょ?」と訊くと、短く肯定の返事が返ってくる。



「はー…、やばいな。」

「何がですか?」

「なんでもない。」



と言いながら私の肩口に額をつける。


あの出張以来、課長は暇を見つけてはこうして私にくっついてくる。特に何をするでもなく、ただくっついてるだけ。

私はそれに応えることもなく、たたされるがまま。



あの課長が。
この台詞、何度目だろう。

だけど、何度も思いたくなるほどに、新しい課長を発見していく。


昨日も、今日も、きっと明日も。

そしてそれを、密かに楽しみにしている私がいた。
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