あの加藤とあの課長
「ふあぁ…。」



欠伸をすると、かけていた眼鏡を外した。

湊の所に通うようになってから、仕事の能率が格段に落ちてしまった。


だから最近ではこうして残業になってしまうことも少なくはない。



「終わったか。」

「なんとか…。」



隣のデスクの課長の方を向いて微笑むと、課長は「お疲れ」と言った。

気付けばオフィスにいるのは私たちだけだ。



「帰るぞ、送る。」

「ありがとうございます。」



課長は車で来ているから、最近はこうして送ってもらうことも少なくない。



「…前々から思っていたが、お前、分かってるのか?」

「何がですか?」



ポニーテールにしていた髪を解きながらきょとんとすると、課長は溜め息を吐く。

何か言っただろうか。



「警戒心が無さすぎると言っているんだ。」

「あぁ。」



なるほど。そういえばあんまり気にしてなかったかもなぁ…。

オフィスを出て廊下を歩きながら、前を歩いていた課長が肩越しに振り返って言う。



「そのまま俺の家までお前を連れて帰ることだってできるんだぞ。」

「そうですねぇ。」



実際、他の人にそうされたことも何度かある。
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