あの加藤とあの課長
「でも課長はそんなこと、しないでしょう?」



エレベーターに乗り込んでそう言うと、課長は顔をしかめた。



「しない…つもりではいるが、いつ枷が外れるかは分かったもんじゃない。」



至って真面目に言うもんだから、思わず吹き出してしまった。



「笑い事じゃない。」

「はーい。」



課長になら、連れて帰ってもらっても構わないと思っている私は相当重症なんだろう。

ううん、きっと、課長に侵食されてる。


居心地のいいこの状態がずっと続けばいいと思ってる。


私、狡い。



「そういえば、お前、飯は?」

「あ、忘れてた。」



課長はさっきおにぎりかじってたような気がしないでもない。



「忘れてたって…、コンビニでも寄るか?」

「いいです、あとは寝るだけだし。」

「そうか?」



お腹空いてるのも忘れてた…。私、食生活乱れすぎだよね…。



「朝は何食べてるんだ?」

「祖父母から送られてきた野菜とか果物が主ですかね。」

「昼は?」

「社食が多いですね。」



そんなこと訊いてどうするんだろうと思いながらも答えていると、課長の眉間に皺が寄る。



「夜は。」

「今日みたいに抜いちゃうことが多いですね。」



と苦笑いすると、盛大に溜め息を吐かれた。



「なんでだ? 料理できないのか?」

「できるんですよ、人並みには。ただ面倒臭くて…。」



どうせ自分しか食べる人いないしね。
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