あの加藤とあの課長
こっちでお店を選ぼうとしたところ、湊は行きたいお店があると指定してきた。



「バー?」

「バーだな。」



お店の看板の前に立って地下へと続く階段を見下ろす。

階段の先から漂ってくる雰囲気はとてもいいもので、外装からもセンスの良さを感じる。


…生渕さん、ごめんなさい。約束は守れそうにありません。



「煌、私のことよろしくね。」

「おう。」



階段を降りて薄暗い店内に入った。

カウンター席とテーブル席があり、その奥にはグランドピアノが置いてある。



「オシャレ…。」

「お前が好きそうな所だな。」



本当、私の好みをピンポイントで捉えている。湊がセレクトしただけある。



「陽ー萌っ、煌!」



後ろから私と煌の肩に腕が回って、その間から湊が顔を覗かせた。



「ミナトさん…、ビビりましたよ。」

「ごめーん。」

「悪いと思ってませんよね。」

「まぁまぁ煌、落ち着こうか!」



にこやかに笑ながら私たちをカウンター席へと促す。



「マスター、俺、いつもの!」

「はい。お連れ様はいかがなさいますか?」



湊が元気よくオーダーしたのに対して、それに丁寧かつにこやかに返すマスター。

こんなマスターもいるのか…。


私が知る限り、こんなマスターはいなかった。軽くて、余裕で客を喰い物にする。

そして喰われた私。



「えっと…、ウイスキーソーダ。」



強いの頼むなー…。いや、私が弱すぎるのもあるんだけど。
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