あの加藤とあの課長
なんとか消えたコーヒーの香りにホッと胸を撫で下ろす。

私はコーヒーが飲めない。甘党だから苦味や辛味には弱いのだ。


増田さんにはなぜかこういった些細な嫌がらせをされる。

……私、何かしたのかな。



「加藤。」



その時、私を呼ぶ声がして、朝ぶりの課長がオフィスに入ってきた。



「はい。」



課長がいると、やっぱり引き締まっていい。

部長は緩やかで穏やかな人で、課長はそんな部長を支えていた。


言わば、営業部の縁の下の力持ち。



「あと10分で出る。用意しとけ。」



そう言って、慌ただしく用意を始める。

無言で資料を差し出すと、驚いたように一瞬目を見開いた後、それを受け取って鞄に詰めた。


何が必要とかちゃんと分かりますよ。なんせ、２度目ですから。



「加藤さん、ココア。」

「ありがとう。」



私用に温く冷まされたココアを晋ちゃんから受け取って急いで飲み干す。

そんな私を晋ちゃんは少し笑った。


課長と外回りなんて、いつぶりだろう。そんなことを考えながら先行く背中を見つめた。
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