あの加藤とあの課長
社用車の助手席、風に舞う桜の花びらを目で追う。この季節が好き。

花びらのピンクの中に葉の緑が混ざり始める。


一瞬で散ってしまう桜の儚さに、何を感じるんだか知らないけれど、あの儚さは好きだ。




「……悪かったな。」



ポツリと呟いた運転席の課長に目を向けるも、その表情からは何も読み取れない。



「何がですか?」

「今回の昇格についてだ。」



そこは普通おめでとうを言うべきなんじゃないだろうか、と思いながら表情を崩すことなく曖昧に返事をする。

課長はネクタイを緩めながら言った。



「増田のことも。」

「あぁ。」



地味なコーヒー攻撃とかにも気付いてたってわけか。じゃあやっぱり…。



「彼女にちゃんと言っておいてください、お前だけだって。」



そう言うと、課長は眉間に皺を寄せた。

やっと崩れたその表情に、なぜだか私は満足してしまう。


今はいいかと思って頬を緩めると、課長は一層皺を深める。



「付き合ってるんでしょう? 増田さんと。」



ニヤリと笑って言うと、課長は溜め息を吐きながら「あぁ」と呟いた。

考えてみれば増田さんの嫌がらせが始まったのは、私が課長補佐になると決定してからだ。


妬いてるんだろうな。不安なんだろうな。

彼女が知る限り、今までの課長補佐は皆男だったもの。
< 9 / 474 >

この作品をシェア

pagetop