あの加藤とあの課長
「あのまま誰かお持ち帰りしちゃうのかと思いましたよ。」



冗談半分で笑いかけると、課長は真剣な表情になって言った。



「俺がそんな軽い男に見えるか?」

「今までの行いからいくと。」



そう返すと、課長は残念そうに顔を歪めた。

でも、それを否定したりはしない。私もだけど、とっても否定できないから。



「お前こそ、あの場で誰かにお持ち帰りされるかと思ったぞ。」

「されませんよ。私、こう見えてあんまり無防備じゃないんです。」

「知ってる。」



課長は煙草を携帯灰皿で揉み消すと、ゆっくりと立ち上がった。



「お前、どうする。」

「え?」

「今泉の所に行くか?」



あ、そっか。私、部屋には戻れないんだった。

課長は少し躊躇いながら、でも私を真っ直ぐに見て、「それとも」と続けた。



「俺の部屋に、来るか。」



暫し、返事も忘れて課長と見つめ合ってしまった。
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