あの加藤とあの課長
私のお腹に回した左腕に力を込めて、窓ガラスについた私の右手を、自分の右手で覆うようにしながら指を絡める。

その手に導かれるように顔を上げると、窓ガラスに映った課長と目が合った。



「簡単についてくるな。」



そう言って私の首筋に顔を埋める。



「あ、あの、私っ、汗かいてるし!」



何オドオドしてるの私!

窓ガラスに写るその姿がなんだか恥ずかしい。私の慣れも彼の前には無意味らしい。



「っ、課長…っ。」



うなじに課長の唇が触れて、なぜだか体が震える。

ダメだ…、泣きそう…。


唇を噛み締めて俯くと、課長は私の首筋から顔を離して言った。



「我慢するのも大変なんだ。」



思わず、お腹に回された課長の腕を、空いていた左手でギュッと握りしめてしまった。

特に、意味はないけれど。


ただ、名前の分からないこの感情に、支配されてしまったように体が動いてしまう。



「課長…。」



今の私には、こうして呼ぶことしかできない。
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